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【オーストラリアハーフラウンド 49, 50日目 退屈!アリススプリングス!】
3日ほど前にエアーズロック日帰り見学ツアーの予約を済ませ、ようやく待ちわびたツアー当日がやってきた。オーストラリアといえばエアーズロック、説明不要な観光地だろう。
私が現在滞在しているアリススプリングスからエアーズロックまでのツアーを催行しているツアー会社はいくつかあるが、私は中でも一番安いツアーを選んだ。
お金さえ払えば3泊4日のツアーやウルル・カタジュタ国立公園内でキャンプできるツアーもあるが、わたしは安いので十分だ。日帰り3食付きで1万8000円は安い。レンタカーを借りて一人で行くよりはるかに安い。ホステルの場所さえ告げれば玄関までピックアップ・ドロップオフまでしてくれる。楽チンだ。
私が申し込んだツアーに含まれる内容は以下のとおりだ。
・ウルル・カタジュタ国立公園入園料の25濠ドル
・朝食(イングリッシュブレックファースト)、昼食(サラダラップ)、夕食(バーベキュー・シャンパン・ワイン)
・アリススプリングスーエアーズロック間の往復バス(たまに片道しかやっていない会社もある)
これで約1万円だ。3食付き、しかも夜はお酒付きでこの価格はおトク感が高い。
ツアー当日の朝は早い。ツアーのピックアップバスが6時(オーストラリア時間)にやってくるので、5時に起きて色々支度を済ませなければならない。顔を洗って、軽く朝食を食べて、荷物をまとめて、もちろんモーニングコーヒーかモーニングティーを啜る時間も考えなければならない。朝に余裕がないのは嫌いだ。


いつものように朝のルーチンワークをこなし、6時5分前にホステルの前でバスを待つ準備が整った。しかしながら、私は重要なことを忘れていた。ここは日本ではない。パンクチュアルにバスが来るわけがなかった。結局、6時20分ごろになってバスがやってきた。待たされるのが嫌いな日本の生き急いでいるサラリーマンなら発狂しているところだろう。幸い私は違う。

バスの中は快適だ。wi-fi(道中殆どの地域で機能しない)とクーラー付きだし、グレイハウンドの安いバスと違ってシートも上質だ。グレイハウンドのシートが教会のチェアだとすれば、ツアー会社のバスのシートはデュレスタのソファだ。これなら往復10時間のバス旅も悪くない。グレイハウンドでは… 正直言ってお断りだ。
バスに揺られて2時間ほどすると、バスはスチュアートハイウェイにあるガソリンスタンドに止まった。ツアーに含まれる朝食の時間だ。率直に言って、ツアー料金から考えて朝食に期待などしていなかったのだが、いい意味で期待を裏切られた。ベイクドビーンズ、片側だけ焼いた薄いトースト、ウインナー、ハッシュブラウン、ベーコン、卵、伝統的なイングリッシュブレックファーストでエネルギーを充填だ。
朝食を食べた後、サービスエリアの横にあるエミュー牧場でエミューを観察した。見るだけなら無料だ。エミューは、地球上で2番目に巨大な身体を持つ鳥類(1番はあのダチョウだ)であり、近くでまじまじと見つめると、取りというよりも恐竜と表現したくなるくらいに力強そうな身体を持っていることが分かる。柵越しでなければ対峙したくない。
朝食を食べたサービスエリアからさらに3時間ほど走ると次の休憩地点がある。休憩地点と言っても、ただ汚いトイレとパーキングエリアが設置されているだけでそれ以外には何もない。しかしながら、ずっと揺れるバスの中で足を曲げて座っているのは酷なもので、何もなくとも車から降りて新鮮な空気を吸いたくなる。

さらに4, 5時間。ようやくエアーズロックがあるウルル・カタジュタ国立公園の敷地に入るゲートをくぐった。最初に見学するのはかのエアーズロック(ウルル)ではなく、カタジュタと呼ばれる奇岩群だ。

カタジュタは、先住民族アボリジナルの言葉で「多くの頭」という意味があるようだ。風食によって削られたと言われている岩肌は驚くほど滑らかで、液体の浸食作用によって削られたとされているグレートオーシャンロードや、ブルーマウンテンズの荒々しく猛々しい見た目とは一線を画する。
バスが止められている1時間くらいの間に、遊歩道の上を歩きカタ・ジュタの谷の奥まで進んでみた。なんでもカタ・ジュタの近くには「風の谷」という地名があり、なにやらジブリの某映画を彷彿とさせるが、ジブリの公式声明によるとこの地域はモデルでもなんでもないらしい。しかしながら、風の谷から眺めるカタ・ジュタは迫り来る王蟲のように見えなくもない。

カタ・ジュタの見学が終わるとバスの中で昼食のサラダラップが配られる。朝食の美味しさから昼食にはなにが出るのだろうとワクワクしていたのだが、昼食は正直言って味気ない乾いたチキンとサラダのラップだった。何か液体がないと胃に流し込むのも難しいくらい美味しくはなかった。

カタ・ジュタの見学を終えると、ようやく待ちに待ったエアーズロック(ウルル)に向かうようだ。エアーズロックとカタ・ジュタは、同じ国立公園内にあるがその距離は100km程離れており、カタ・ジュタからウルルに向かうには1時間程度は要する。だんだんと近づいてくる巨大な岩に期待を膨らませながらバスの車窓を眺めていた。
しかしながら、次の目的地はエアーズロックではなく、エアーズロックの麓にあるアボリジナル・ビジターセンターだった。ここでは、ウルルがいかにアボリジナルにとって神聖なものであるか、登ることはアボリジナルの冒涜に値することを学ばせられる。
2019年を持ってウルルの登頂は不可能になるそうだ。「ウルルは登ってはいけない場所だ」と教え込まれるが、登りたいのであれば今年中に登ることだ。同じく神聖な土地であるはずのチョモランマ(チベットやネパールの民族間では神聖な場所として知られている)では入山料こそ請求されるが登頂を禁止されるということもない。さらに、我々の知るとおり日本における神道でも山岳信仰は見られ、国内のいくつかの山、とりわけ富士山は神聖な土地であるはずだが観光客に対してオープンだ。
オーストラリアの先住民族問題について詳しく知らない身からすると、地球上から素晴らしい景色が見られる場所が一つ消えてしまうと言うだけで哀しさを感じる。
閑話休題、ウルルの壮観について述べよう。一言で言えばスケールの大きさに驚愕する。
ツアーガイドの説明によると、先程見学したカタ・ジュタとウルルの地学的成分は同じであると考えられており、褶曲した地層の両端がそれぞれカタ・ジュタ、ウルルであるというのが通説だそうだ。ウルルの周囲を散策しながらガイドの説明を聞いた。
エアーズロック散策を終えると、街に待ったバーベキューディナータイムだ。1人1枚か2枚の巨大な肉を支給され、シャンパンとワインはなくなるまで飲み放題だ。もちろんMoët Chandonではないが、こんな景色を見ながらシャンパンを飲めるだなんて最高じゃないか。
ツアーに参加している同行者と酒を交わし、ひとしきりディナーを楽しんだ。ディナーというよりはとにかく酒を煽っていた気がする。大自然の中で酔うのは気持ちいい。それに、1日の中で私が最も好きな黄昏時であった。これ以上なにを望むというのか。

ディナーを終えてからはバスに乗り込んで、朝出発したホステルに戻るだけだ。まだほろ酔いの脳で今日の壮大な思い出を反芻しながら、ホステルに向かった。