※真面目な体験記はTABIRINさんに寄稿しています。
ついに、ついにグループライドの日がやってきた。正直なところ、どうやら私の脳みそは小学2年生の夏からひとつも進歩していないようで、前日は自転車に乗ることが楽しみすぎてなかなか寝付くことができなかった。
旅行から1ヶ月が経った今思い返してみても、この日は間違いなく台湾滞在13日の中でのハイライトである。都市部を観光したり、美味しいスイーツを食べたりするのも良いかもしれないが、私の身体の中を流れる血が本当に求めているのは人里離れた山の中で息を切らしながら苦しむことだ。風を切って知らない道を突き進むことだ。
数日間海外旅行で観光をしていると「自転車に乗りたい」という抗いがたい欲求が生まれてくる。オーストラリアをバックパッカー旅行したときも旅行終盤では青空の下で自転車に乗らないことに耐えられず結局バイクをレンタルしてサイクリングしてしまった。
【オーストラリアハーフランド 52日目 アウトバックでサイクリング】
ラファグループライドの集合時間は朝の7時30分だったのだが、2行前で説明したとおり、ライドが楽しみすぎて、おなかが空き過ぎて”待て”が出来ない犬と同じ状態だったので、集合時間よりもかなり早い7時前にホステルを出発してラファ台北の周辺をプラプラとライドしていた。
実は、このグループライドに参加した6月9日の約1ヶ月前の5月4日に、トレーニング中の落車により左鎖骨を骨折していたので、実に約1ヶ月ぶりにサドルに跨る機会であった。
骨折後2時間後の私の姿と私の鎖骨。ゴールデンウィーク中に骨折したので、病院で気が遠くなる時間待たされた。
体調が悪ければキャンセルするつもりであったが、軽く乗った感じ違和感はあるものの、痛みを感じることはなかったので無事地元のライダーを破壊… いや、地元のライダーと和気藹々とサイクリングできるだろうと確信した。
ラファの周りをちょろちょろした後、集合時間15分前の7時15分くらいにラファの目の前に到着した。

集合時間の15分前ともなれば何名かのサイクリストが待っているかと思ったが、やはりこれはパンクチュアルな日本人の感覚だったようで、昨日サイクルショップでお会いした日本人親子以外の姿は見られなかった。
ともあれ、集合時間3分前くらいになるとパラパラと人が集まってきてグループライドらしい人数になった。集合時間を超えてもなお何名かがパラパラやってくるのもグループライドらしい。5人以上のグループライドが定刻通りに開催されることはまずないと考えて良い。
サイクリスト同士のコミュニケーションはほぼほぼ英語で通じた。参加者の7割から6割程度は話せたイメージだ。ホステルや飲食店でのイメージでは、英語を話す台湾人はかなり少ない(1割から2割程度だろうか。日本よりは高いが決して高い数字ではない)印象だが、お金持ち趣味の側面を持つサイクリングのイベントでは、”ハイクラス”や、自転車の持つ”ヨーロッパ文化”という特性からフィルタリングされて国際的なグループが形成されるのだろうか。もちろん、日本語話者は我々プロパー日本人だけである。

みんなで写真撮影をした後、50人ほどで南深路という登り区間に向かった。
ルートはStravaで確認してください。
最初の平坦15キロほどは初心者がいることもあり、かなりゆっくりテンポで郊外まで走った。その後、例の登りに差し掛かると20人ほどいた集団がバラバラになり、前の方の6人でなにやら争いが起こりそうな気配を感じた。心の中で、「あーあ、始まったよ。」と呟いた。
レースでない普通の休日サイクリングでも、血の気が多い人が集まると度々こう言ったことが起こる。争いの起こりそうな気配をもっと具体的にいうと、ライダー同士の談笑が途切れ皆が無言になり、聞こえるのはギアチェンと息切れの音のみ、そしてペースが間違いなく”ゆっくり”ではないという状態である。
不運なことにも台湾の地元ライダーがペースアップをしてしまったようなので、私も先頭に着いていくことにした。未だに精神年齢が8歳なので、千切れて遅れてフィニッシュすることが嫌だった。駆けっこだってかくれんぼだって絶対に負けたくないタイプの子どもと同じだ。
フラットペダルでダンシングも出来ない中、踏み踏みペダリングでなんとかトップから遅れないようにして登りをフィニッシュした。幸いなことに登り区間は5分弱と私の最も得意な時間だったので遅れを喫することなく着いていけた。

ただ、台湾の酷暑の中パワーを出して登ることはかなり身体に負担が掛かったので、普段運動していない方が夏の台湾でサイクリングをする場合は熱中症に十分な注意を払っていただきたい。せっかく台湾に来ているのだが、やっぱりサイクリングをするなら北海道だと思った瞬間であった(一応日本全国を自転車で回った後での感想だ)。

ちょっとお腹の重量物を取り外した方が良さそうですね…

台北のサイクリストなら一度は登る坂らしい。日本で言えばヤビツ峠的な?
あとは坂を下ってラファ台北に戻るだけだ。坂を下る際、途中でブラインドの信号があったため私は停止したのだが、どうやら台湾のサイクリストの共通認識では信号は無いものと見做すらしい。台湾のライダーは私の両サイドを猛スピードで過ぎ去って行った。しまいには「あぶないよ!」とちょっと怒られてしまった。確かにスピードが上がった集団でいきなり止まるのは危ないことだが…
いや、信号、守らないんスね…

帰り道からは台北101が見れた。
平坦路を経てラファ台北に戻ってきた。日本にあるラファと同じく、店内はアパレルショップ兼カフェのようになっており、自転車ライクな方々が集まり自転車ライクな談笑を交わす場として使われているようだ。
梅は台湾の国花だ。ラファ台北のシンボルにもなっている。

私はアイスコーヒーを頼んでひと休憩することにした。真の自転車乗りなら、自転車に乗ればコーヒーが飲みたくなり、コーヒーを飲めば自転車に乗りたくなるはずである。サイクリスト的にはライド前のダブルエスプレッソはルーティーンであろう。
皆がコーヒーやティーを飲みながら談笑している間に、午後からのライドに付き合ってくれるタフなライダーがいないか聞いて回ってみることにした。しかしながら、日中の気温が高くなりやすい台北では、(もちろん人によるだろうが)自転車は朝方と夕方にちょろっと乗るものという共通認識があるようだ。ことごとく、「午後は用事がある。」、「暑いから僕は帰るよ。」攻撃を受けた後、昨日お会いした日本人親子にもこれから数十キロ走らないかと尋ねてみると、意外なことにOKが返ってきた。親子旅行に水を差さないか心配であったが、お二人ともオープンそうなマインドなのであまり心配は要らなかったようだ。
余談だが、会話の中でその大学生から溢れ出る知的な雰囲気(具体的に言うと選ぶ語彙や立ち振舞い、語学的能力等)を感じ取って、通っている大学を尋ねてみた。初対面の大学生同士(私は2年ほど前に卒業してしまっているのだが…)が邂逅すれば、当たり障りのない会話としてまず話すのが大学や専攻、部活動の話だろう。また、自転車という共通項があるので、もしかしたら知り合いがいるかも知れないと思って聞いてみたのだが、返答は、
「東京の… 大学です。」。
なんだか歯切れの悪い回答だったので、あまり著名でないところなのかと勘ぐってもう一度こう尋ねてみた。
「東京の、なんて所ですか?」
「東京…大学です。」
Oh dear.
ナントカ・ユニバーシティかと思って尋ねてみれば、ユニバーシティ・オブ・トーキョーじゃないか。UT(他の大学の略称はアルファベット+Uだ。Universityが最初に来る大学は最高学府である東京大学のみだ。)じゃないか。最高学府じゃないか…(たまに京都大学が最高学府だと信じて疑わない京大生がいるが、それは間違いなく東京大学だろう。)。
確かに「最高学府に通ってます!」といえばちょっと自慢のようなニュアンスを含んでしまい、抜け駆けは許さないという皆の心に眠っている潜在的共産主義を呼び起こしてしまう。だが、それは今までの勤勉さや自身の能力の高さゆえのものなのだからもっと胸を張ろうじゃないか。謙遜心も持ち合わせているとは、流石ですね同志(Comrade)。

英国の人気テレビドラマシリーズ、シャーロック的に言うと「頭のいい人ってセクシー。」(この台詞のあとキョドってしまうカンバーバッチが可愛い。)。知的な女性って魅力的ですよね。
かくして、台北グループライドはラウンド2を迎えた。
ナンバリングは2が最高というのは周知の事実だ。ターミネーターシリーズは2が最高傑作だし、バットマン3部作は間違いなく2のダークナイトが傑作だ。エイリアンだって1よりも2の方が面白い。なので、グループライドラウンド2が面白くならないわけがない。もっとも、ターミネーター3は完全な駄作になったし、バットマン3に当たるダークナイトライジズは尻すぼみな終わり方をしてしまったし、エイリアン3は前作までと全く雰囲気の違う作風になってしまって観客を困らせた映画だが、とにかく2は最高だ。
ラファ台北でアイスコーヒーを飲み干し、台北市街地から約20キロほど川沿いを北上した淡水老街へと向かった。

川沿いはフルフラットのサイクリングロードになっており非常に走りやすかった。小さな子供も走っていたりするのでスピードは出せないが、鎖骨を折ってすぐのリハビリには丁度いい。
ところで、道中でインスタ凝り性を発揮して、同行していただいた日本人親子の写真をパシャパシャと撮影したところ、予想以上に喜んでいただけたのでなんだかこちらも嬉しい気持ちになった。普段は千切ったチームメイトや後輩を撮影しては睨まれていたので、写真を撮って喜ばれるとはなかなか無い体験であった。

こちらも日本に帰ってから旅りんさんに寄稿するための写真をいくつか撮っていただけたので非常に助かった。一人では被写体ゼロの風景画しか撮影出来ない。
やらせ写真① やらせ写真②
台北市街地から約20km地点、淡水老街の手前はなんと石畳だった。

ズンズンとペダルにトルクを掛けて進むと北のクラシック・パリ~ルーベ気分を少しだけ味わえる(パリ~ルーベを知らない方は下下の動画を見られたし。)。トルクを掛けたペダリングが出来ないライダーは石畳区間でスピードを維持することは難しいだろう。
そして到着。淡水老街。

ここで昼食を取ろうと考えていたのだが、想像以上に通りの人通りが多く、自転車で乗り入れるにはあまりに不向きな場所しかなかったので、我々は目に入った吉野家に駆け込むことにした。自転車という高級品を持っているとなかなかに行動が制限されるのも事実だ。

なんだか巨大なソフトクリームを売っているお店があった。ライトセーバーみたい。ちょっとでも傾けたら落ちてしまいそうだが…
昼食を終え、軽く淡水老街を見て回った後、我々は帰路に就くことにした。
帰り道は約2m/sほど(体感)の追い風であり、ペダルに体重を乗せるだけですいすいと進んで行けたので同行していた日本人親子も心なしか楽そうに見えた。行きの向かい風区間ではちょっと憔悴したような表情だったが、帰りが楽だと気分的にも楽だろう。

これはサイクリングロードの途中にある道教の宗教施設である。

追い風のおかげで、台北市街地とサイクリングロードの境目にあたるダーダオチェン(レンタルショップがある場所)にはそれほど苦労を必要とせず到着した。ダーダオチェンのサイクリングロード沿いには食べ物や飲み物を提供する屋台のようなお店がいくつか軒を連ねており、おなかがぺこぺこになりがちなサイクリストの胃袋を射止めようという魂胆が丸見えである。そして我々も例に漏れず喉がカラカラお腹ペコペコだったので、軽くそこで喉を潤してからレンタルショップに寄る(日本人親子はバイクを返却する)ことにした。
なんと、ここでは邪悪なサイクリスト向けにビールやジントニックが売ってあった。100mほど離れたバイクショップでレンタルバイクを返却後即飲酒という身体疲労回復阻害コースも選ぶことができる。もちろん、自転車に乗ってホテルまで変えるならビールは飲めない。オーストラリアや一部のヨーロッパ諸国とは異なり、少しの飲酒でも自転車を含む車両には乗ってはいけない。まあ、これは西洋諸国の広い道路と密度の低い交通量だからこそ許されることであって、死にたいとしか思えないスクーターの群れとスクーターを殺したいとしか思えないバスドライバーの熾烈な戦いが繰り広げられている台北ではすこしの飲酒が大惨事を引き起こすからであろう。

私はサイクリストらしく、コーラを飲んだ。
ここまで一緒に来ていただいた大学生とそのお母さんの日本人親子は見るからにヘトヘトだった。大学生の方はまだ数回程度しか自転車に乗っていない初心者だそうで、なんでも今回の70km程のライドが自己最長距離のライドだったようだが、ガッツの見える走りで最後まで完走しきっていた。

Chapeau!
あと、引き摺り回してごめんなさい…
そして、やはり2は最高ということが今回も証明された。
最後に、ラファのライドに誘ってくださったKさん親子、またラファ台北のライドで一緒に走ってくださったライダー達のおかげで素敵な一日になったことに感謝したいと思います。