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【オーストラリアハーフラウンド 52日目 アリススプリングスでサイクリング】

エアーズロック見学、砂漠でのサイクリングと2日間立て続けにアウトバックを満喫した。そしてこの日の朝も、まだ気温が上がりきる前に軽くサイクリングをして汗を流そうと考えていた。なにせ、今日がアリススプリングス滞在最終日なので、余すところなくこの街を楽しもうと考えたのだ。食べ物も残さず食べるタイプなので、その土地で何かをやり残したまま去るのは気分が悪い。それに、早朝のサイクリングの気持ちよさといえば、比類するものなき快楽だ。
町中から3 kmも離れていない岩場を見つけて登っては降りて、登っては降りてを繰り返していた。本質的には雪山をソリで下って降りる子供と同じだ。身体は順調に(ちょっと早すぎる気もするが)老いていくのに対して、私の精神には依然として8歳児の心が住み続けている。

アリススプリングスの朝焼けについては特筆すべきだろう。水分を含まない乾いた空気のせいなのか、日本で見る朝日とは全く違う感情を抱くことだろう。
まさに、燃える朝焼けとはこのことだ。なんだか、TOTOのAFRICAが聴こえてきそうな、静かな朝だった。
こちらはYESの「heart of sunrise」、邦題は「燃える朝焼け」
ひとしきり重力に抗ったり、重力に従って落ちたりした後、とうとう別れの時間がやってきた。24時間しか一緒にいなかったとはいえ、この特別な時間を一緒に過ごした友に別れを言うのはとてもつらいことだった。私は、一般人よりもホイールのついた無機物に対して感情移入しやすい方のようなので(他の人々を観察して得た結論だ)、すこしばかりセンチな気分になってしまった。想像して欲しい。隣の家に住む夫婦が、ちょっとばかり旅行に行くと言って飼い犬を預かってほしいと頼まれた場合を。あなたはその犬と1日や2日しか一緒にいないはずだが、別れの時間がやってくると同仕様もなく寂しい気分になってしまうはずだ。私の感情もちょうどそんな感じだろう。

朝のサイクリングも終え、私はそろそろ次の街へ向かう準備を整えなくてはならなかった。次の街、ダーウィンはアリススプリングスから約1500kmも離れており、気候もがらっと変わる。典型的な岩石砂漠を想像してもらえれば、アリススプリングスがどういった場所かということは説明できる。一方、これから私が向かうダーウィンは赤道にほど近い熱帯、つまり次に想像してもらうのは赤や黄色といった羽毛をまとった鳥が飛んでいるようなジャングルだ。
気候を気にする前にも気にしなければならないことがある。ここまでオーストラリアハーフラウンドの日記を読んでいる読者諸君ならば気づいているだろうが、それはバスの乗車時間だ。この旅で最も私を悩ませた宿敵がまたやってくる。今回は、ダーウィンに到着するまでアリススプリングスを出発してから28時間、なんとまる1日以上を清潔とも快適とも言い難いシートの上で過ごさなくては行けないのだ。これは移動というより拷問と表現したほうが正しいだろう。
グレイハウンドのバスが出発するバス停で、長期にわたる懲役刑を言い渡された罪人の如く赤いバスを待っていた。
おっと、言い忘れていたことがある。メリークリスマス。